脈拍の測定方法と注意点
脈拍は、「体表から触れることのできる動脈の拍動」であると理解できましたね。
それでは次に脈拍の測定方法についてお話していきます。
脈拍測定部位
脈拍は、全身のいくつかの動脈で測定することができますが、臨床で日常的に最も多く測定される部位は「橈骨動脈」です。橈骨動脈が蝕知できない場合や弱い場合には、足背動脈(足の甲)や総頚動脈(首)で測定します。なお、教科書によっては上腕動脈や大腿動脈で測定すると書いてあるものもありますが、臨床ではあまり使われません。
<橈骨動脈>
橈骨動脈は、手関節の親指側に通っています。橈骨動脈の下に骨があるため、軽く触れるだけではっきりと脈拍を感じることができます。
橈骨動脈に触れる際には、患者さんの手掌を上に向け、2指(示指(ひとさしゆび)、中指)または3指(示指、中指、環指(くすりゆび))をそろえ、そっと触れます。このとき力を加えすぎると、脈拍に触れなくなることもあるため注意が必要です。
通常は左右差は認められませんが、大動脈疾患や末梢の血管疾患がある場合には、両側の橈骨動脈を触知して左右差がないか確認します。
<足背動脈>
足背動脈は、足の甲の中央付近を走行しています。
足背動脈は、骨折、下肢の静脈瘤、浮腫等で測定されます。
<総頚動脈>
総頚動脈は、急変時などの末梢動脈が触れにくい場合に使用されます。総頚動脈は、胸鎖乳突筋(鎖骨と、頭蓋骨の耳の後ろをつなぐ筋肉。左右側面にある。)の内側にあります。
脈拍はどれくらいの時間図るのが正しいのか?
バイタルサインは通常「1分間に○回」という値が目安になりますが、臨床の現場で1分間も脈拍を取り続けるというのは非現実的です。
通常は、15秒間測定し、それを4倍(15秒×4)することで1分間の脈拍数とします。
ただし、脈拍数が100回/分以上の場合や60回/分以下の場合、不整脈が出ている場合などは、きちんと1分間測定し、正確な値を把握するようにします。
脈拍測定時に確認すべき5つのポイント
脈拍を測定するときには、ただ脈拍数だけをカウントすればいいという訳ではありません。脈拍に触れることで、循環動態の様々な情報を手に入れることができます。確認すべき5つのポイントを押さえ、毎回の脈拍測定でより高度なアセスメントをしていきましょう。なお、それぞれの異常については次のページから詳しく解説していきます。
@脈拍数
成人の正常値は、60〜80回/分です。小児ではこれより多くなり、高齢者では少なくなります。なお、成人でも普段の運動量が多い人は脈拍数が少なくなる場合があります。これをスポーツ心臓と呼びます。
A脈拍のリズム(調律)
心臓のリズム(調律)が正しくコントロールされている状態のことを「洞調律」といいます。洞調律の状態では、心臓は一定のリズムを刻んでいます。しかし、期外収縮や心房細動などの不整脈では、リズムが不整になります。
※不整脈:脈拍の間隔が一定でないもの
B脈の大きさ
脈拍の大きさとは、拍動の振り幅の大きさのことです。脈の大きさは、触知している指がどれくらい持ち上げられるかどうかで判断します。脈圧が大きいと拍動の振り幅が大きくなります。これを「大脈」といいます。逆に、脈圧が小さいと拍動の振り幅が小さくなります。これを「小脈」といいます。
※脈圧:収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)の差のこと
C脈拍の立ち上がりの速さ
脈拍の立ち上がりの速さをみることで、左心室の収縮性を把握することができます。
※左心室:全身へ血液を送り届ける役割をもつ
なお、「脈拍の立ち上がりが早い」状態とは、脈が急に速くなったり遅くなったりする状態のことです。脈拍の立ち上がりが速い場合を「速脈」、立ち上がりがゆっくりしている場合を「遅脈」といいます。
D脈拍の緊張度
脈拍の緊張度を把握するには、動脈にあてた指のうち中枢側の指を圧迫し、末梢側の指で脈圧を触れることで把握することができます。つまり脈拍の緊張度とは、どのくらいの力を加えたら拍動が触れなくなるか、ということです。強い力が必要な時は、緊張が強い「硬脈」、弱い力で圧迫できてしまうときは緊張が弱い「軟脈」といいます。
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