吸気を成りたたせるもの@トリガー
息を吸い込むこと(吸気)を成り立たせるためには、息を吸って、吸い込んだ状態をキープして、そして吐き出す、という3つの要素が必要になります。
人工呼吸器は、患者さんに空気を送り込む機械です。そのため、吸気を成り立たせるためのこれら3つの要素についても、必要に応じて設定していく必要があります。
人工呼吸器の用語では
@息を吸うこと(吸気の開始)をトリガー
A吸い込んだ状態をキープすること(吸気の維持)をリミット
B吐き出すこと(吸気の終了、吸気から呼気への移り変わり)をサイクルと呼んでいます。
順番に見ていきましょう。まずこのページでは、「トリガー」は何かについて、説明していきますね。
トリガーとは何か
トリガーとは、ざっくりいうと「呼吸のサイクル(吸気相)を始めること」をいいます。「何をきっかけに、患者さんに空気を送り始めるのか」ということです。
トリガーには、機械が送気を始めるタイミングを決める「呼吸器(器械)トリガー」と、患者さん自身がタイミングを決める「患者トリガー」があります。
呼吸器(器械)トリガーは自発呼吸がない場合、患者トリガーは自発呼吸がある場合に選択されます。
呼吸器(器械)トリガー
人工呼吸時に設定した基本的設定どおりに、器械のタイミングで送気が行われるのが「呼吸器(器械)トリガー」です。
自発呼吸のない患者さんは、すべて呼吸器(器械)トリガーによる換気になります。
患者トリガー
基本設定@〜Eでは、空気を送る速さや量、酸素濃度についてなど・・・人工呼吸器の基本的な設定についてみてきましたね。人工呼吸器に設定した呼吸を、ただひたすらに行う呼吸を「調整呼吸」といいます。人工呼吸器に必要な設定さえ行えば律儀に呼吸をし続けてくれるのですから、とても便利です。しかし、調整呼吸には一つ難点があります。それは、患者さんに自発呼吸があった場合、患者さんが呼吸するタイミングと機械が呼吸するタイミングが合わないと、患者さんが苦しくなってしまうという点です。
自分自身におきかえて想像してみましょう。自分のリズムで呼吸したいのに、たとえば息を吐き終わた瞬間に空気が送り込まれて来たら・・・?たまったもんじゃありませんよね。
そこで考えられたのが、「患者トリガー」という機能です。
トリガーは、簡単に言うと、患者さんの呼吸の始まりを感知する仕組みのことです。トリガーを設定しておくことで、患者さんの吸気の始まりを察知し、そのタイミングに合わせて空気を送り込むことが可能になるのです。
では、具体的にはどのように患者さんの吸気の始まりを察知するのでしょうか。それには、2通りの方法があります。
患者さんの吸気を察知する、2通りの方法
患者さんの吸気を察知する患者トリガー。トリガーする方法は、2通りあります。「圧トリガー」と「フロートリガー」です。
圧トリガーとフロートリガー、どちらのトリガーが採用されているかどうかは、機種によって異なります。両方あって、選択できるタイプの機種もあります。
それでは、圧トリガーとフロートリガーについて、それぞれみていきましょう。
圧トリガー
圧トリガーとは、呼吸器の回路内に生じるわずかな陰圧を察知することによって、患者さんの吸気の始まりを認識する方法です。
呼吸器の回路は、原則として閉鎖回路です。そのため、患者さんが息を吸い始めると、回路内にわずかな陰圧が生じます。機械に回路内の圧を測定させておき、設定してある圧よりも陰圧になったら「患者さんが息を吸い始めた!」と認識させます。
このときあらかじめ設定しておくのは、「トリガーレベル」と「感度」という項目です。
これらの項目、あまり敏感に設定しすぎると、呼吸器が少し揺れただけで「患者さんが息を吸い始めた!」と間違って認識してしまい、空気を送り込み始めてしまう場合があります。
また逆に、あまり鈍感に設定しすぎると、患者さんが一生懸命息を吸わないと認識してもらえなくなってしまいます。
そのため、通常は−2cmH2Oという圧に設定しておくのがよいといわれています。
フロートリガー
フロートリガーの場合は、呼吸器の回路内に一定のガスを流しておきます。患者さんが息を吸うと、回路内のガスが減少します。
この、流し始めた時のガスの量と、帰ってきたときのガスの量に差が生じていれば、「患者さんが息を吸い始めた!」と認識するのがフロートリガーです。
たとえば、10L/minという量でガスを流しはじめたとしましょう。帰ってきたときのガスの量が同じく10L/minだった場合は、機械は「自発呼吸なし」と認識します。しかし、10L/minでガスを流し始めて帰ってきたときのガスの量が7L/minだった場合、「自発呼吸あり!」と認識し、空気を送り込み始めます。
圧トリガーと違い、フロートリガーは、特に設定する項目はありません。フロートリガーのほうが、誤認知が少ないといわれています。
ただし小児のように、カフなしの挿管チューブを使っていて空気漏れがある場合などには、うまく感知しない場合があるので注意が必要です。
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