DOPEの”D” Displacement
人工呼吸器使用中の患者さんが急変したら、まずはバッグバルブ換気を行うのでしたね。詳細は人工呼吸器使用中の患者さんの急変!まずは落ち着こうを確認してみてください。
バックバルブによる用手換気に切り替えたら、次は原因検索を行っていきます。
でも、ただやみくもに「なんでだろう?なんで!?」・・・と考えても答えは出てきません。
焦っているときほど、冷静に。
人工呼吸器トラブルにおいては、DOPEというキーワードで原因検索していきます。
まずはDからみていきましょう。
Displacement
DOPEのDは、「Displacement」のDです。
「displacement」ってみると、なんだか長くて萎えてきますが・・・ぶった切って考えると、この単語はとても覚えやすいです。
「dis」→(後ろにつく言葉の「否定」を意味する)、「place」→位置する、「ment」→〜こと
つまり、「正しい場所に位置していない!」ということです。
「一体何が正しい場所に位置していないんだろう?」と思われるかもしれませんが、その答えも簡単です。
ずばり、「チューブが正しい場所に位置していない」のです。
「チューブが正しい場所に位置していない」とは?
それでは、「チューブが正しい場所に位置していない」というのはどのような状況なのでしょう。
主に、以下のような状況が考えられます。
・気管チューブの移動
・気管チューブの上方逸脱
・気管チューブの下方移動
・カフのリーク
順にみていきましょう。
気管チューブの移動
実は・・・しっかりチューブを固定しているように見えても、気管チューブが移動してしまう場合があるんです。それは、どのような場合だと思いますか?
答えは、「首を動かしたとき」です。
頚部を屈曲させるとチューブは深く移動し、進展させると浅く移動します。その長さは、なんと2cmです。つまり、首を曲げれば2cm深く入ってしまう、首をそらせば2cm浅くなってしまうのです。
そのため、特に患者さんを移動させるときなどは、頚部をしっかりと保持してチューブが移動してしまうのを防ぎましょう。
気管チューブの上方逸脱
気管チューブの上方逸脱とは、チューブが声門部から脱出してしまうことです。こうなってしまうと、再挿管を余儀なくされてしまう場合があります。
カフに空気を入れてもカフリークが持続するような場合には、気管チューブの上方逸脱(声門からの脱出)を考える必要があります。
また、長期にわたって気管チューブを留置していると、チューブの固定位置は変わっていなくても、口腔内でたわんでしまってチューブが浅くなっている場合もあるので注意が必要です。
気管チューブの下方移動
気管チューブが深く入りすぎてしまい、気管分岐部まで行ってしまったり、片肺挿管になってしまった場合(主に右主気管支に入りすぎてしまうこと)を指します。
人工呼吸器使用中にはよく「CO2カプノメーター」と呼ばれる、食道でなくちゃんと気管支に挿管されていることを確認するための器具が使われることがあります。このCO2カプノメーターを用いて、「大丈夫、ちゃんと挿管されている!」・・・と思っても、片肺となってしまっていような場合もあるので注意が必要です。
カフのリーク
カフは、気管チューブについている小さい風船のようなものです。空気を入れて、気管に固定することで、チューブが抜けるのを防ぐ役割があります。
カフの空気が少なくなってリークが発生してしまう、というのは比較的よくみられる現象です。頚部に聴診器を当てて、吸気時に変な音が聞こえればカフリークが発生しているということですので、カフに空気を注入しましょう。ちなみに正しいカフ圧は、カフ圧計で20〜25cmH2O程度です。さわってみた感触が耳たぶくらいであるのがちょうどいい状態です。
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