自己抜管・事故抜管

 

人工呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV)の場合を除いて基本的には気管チューブを通して行われます。
つまり、気管チューブがきちんと挿入されていなければそもそも人工呼吸管理は成り立たないのです。

 

その気管チューブがもしも何らかの原因で抜けてしまったらどうでしょう。人工呼吸管理を行うことができなくなり、場合によっては患者さんの命にかかわってきます。自己抜管・事故抜管は、一刻を争う事態なのです。

 

しかも自己抜管・事故抜管は、多くの急変時がそうであるように、突然、前触れもなく起こります。
いざそのような場面に出くわしたときに冷静に対応できるよう、知識だけはしっかりとつけておきましょう。

 

自己抜管について

自己抜管とは、その名の通り患者さんが自分で抜管してしまうことです。

 

自己抜管を起こしやすい患者さんには、以下のような特徴があるといわれています。

 

・ICU入室期間が長い
・喫煙患者
・合併症を有する
・血中二酸化炭素濃度が高い
・血中尿素窒素が高い
・入院期間が長い
・興奮状態、見当識障害がある
・身体を抑制されている
・睡眠が不十分(不眠、断眠、熟睡できていない、昼夜逆転)

 

精神状態や意識状態の悪い患者さんに対しては、特に注意が必要です。現状の正しい認識ができずに、自己抜管を引き起こしてしまう可能性が高いからです。

 

<自己抜管の予防策>

事故抜管を防ぐためには、まずは今患者さんがどのような精神的、身体的状態にあるのかどうかを的確に把握することから始まります。
患者さんの不安が強い場合には、現在の状態や挿管の必要性などについて繰り返し説明するとともに、なるべく安心感を与えるような声掛けを行っていきます。

 

また、必要時鎮静鎮痛薬の種類・量の見直しや、抑制等の使用も検討していきます。

 

事故抜管について

先ほど説明した「自己抜管」は、患者さんが自ら気管チューブを抜いてしまうことでした。
それに対して「事故抜管」は、管理側の問題で起こってしまう抜管です。

 

事故抜管が起こりやすい状況には、以下のようなものがあります。

 

・気管チューブがしっかりと固定されていない
テープが唾液や分泌物、口腔ケア時の水などでぬれていると、一見きちんと固定されているように見えても実はテープの粘着力が弱まっている場合があります。
そのため、もしもテープがぬれているのが確認されたら速やかに交換しましょう。

 

・テンションがかかることによる抜管
体位変換、人工呼吸器の移動時、患者さんの体動時などに、回路にテンションがかかって引っ張られ、気管チューブが抜けてしまうことがあります。そのため患者さんや周囲の環境(人工呼吸器含む)を動かすときには必ず回路に余裕があるか確認しながら行いましょう。

 

自己・事故抜管の対応

自己・事故抜管が起きてしまったとき、自発呼吸がない場合などは、呼吸状態の悪化によって脳や心臓をはじめとする臓器が虚血状態になり、不可逆的な変化を引き起こしてしまう可能性があります。

 

よって、自己・事故抜管が起きたら速やかに対応を行わなくてはいけません。

 

まずはNsコールでスタッフを集めます。
対応したスタッフはすぐにDrコールを行い、ほかのスタッフにも声をかけ、救急カートをもって患者さんのもとへと向かいます。

 

受け持ちスタッフは、速やかに患者さんの意識、呼吸、循環動態を確認します。(ただし、ここですべてのバイタルを丁寧にとっていく・・・なんてことはしないでください。患者さんの全身状態やモニターから、パッと判断します)

 

そして、患者さんの状態に応じて以下のように対応していきましょう。

<自発呼吸がある場合>
自発呼吸がある場合は、気管切開孔(気管切開していない場合は口)から酸素投与を行います。
そして、酸素投与を行いながら引き続き全身状態、バイタルサインの観察を行い、ほかのスタッフやDrが集まるのを待ちましょう。

 

<自発呼吸がない場合>
・気管切開している場合
患者さんが気管切開しているときには、気管切開孔を清潔なガーゼでふさぎ、鼻・口に確実にマスクを当てて、バッグ換気を行います。

 

・気管切開していない場合
気管切開していない場合には、気道確保を行った後バッグ換気を行います。

 

そのあとは、再挿管が行われます。
気管切開をしている患者さんは、再挿管に時間がかかると気管切開孔が狭窄し、咽頭浮腫による挿管困難が起こり得ます。そのため再挿管はできるだけ速やかに行いましょう。
また、このような事態も考慮し、挿管している患者さんのベッドサイドには必ず、現在使用している気管チューブのほかにもうひとサイズ小さい気管チューブも用意しておきましょう。

 


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