DOPEの「P」 Pneumothorax
人工呼吸器使用中の患者さんが急変したときの原因検索は、「DOPE」の順番に行うのでしたね。
このページでは、DOPEの「P」についてみていきます。
Pneumothorax
いままでみてきたDOPEの「D」と「O」は、それぞれチューブの位置異常、チューブの閉塞と、チューブ関連のトラブルを示しているものでした。「P」は、少し異なります。Pneumothoraxの日本語訳はずばり、「気胸」。ここで、疾患名がでてくるところがポイントですね。
ちなみにPneumothoraxって読めますか?Nsかなむんはこの記事を書くまで読めませんでした。
Pneumothoraxは、簡単に日本語読みしちゃうと「ニューマソラックス」となります。
気胸とは
気胸とは何かを説明する前に、まずは肺について簡単におさらいしましょう。
肺は、ブドウの房のような形をしています。そのブドウの房は「臓側胸膜」と呼ばれる膜で覆われており、臓側胸膜の周りを「壁側胸膜」が覆っています。そしてこれらがある空間が「胸腔」と呼ばれている空間です。
肺には、弾性(縮まろうとする力)があります。ほおっておくと、肺はどんどん縮んでしまうのです。しかし、それでは困りますよね。そのため正常時は、「陰圧」と呼ばれる「引っ張る力」が肺に働いており、肺を引っ張ることで、均衡を保っているのです。
非常にうまくできているこの仕組みですが、この仕組みが働くためには条件があります。それは、胸腔内にある2つの膜、臓側胸膜と壁側胸膜がちゃんとしていることです。2つの膜がちゃんと肺や胸郭を覆っている場合に、肺には陰圧が加わり、肺がしぼむのを防いでいるのです。
気胸は、何らかの原因で臓側胸膜もしくは壁側胸膜が破れてしまった状態のことを指します。
するとどうなるか。
いずれの場合も、胸腔内に空気が入ってきます。すると、いままでかかっていた「陰圧」がかからなくなってしまうのです。肺の弾性(縮まろうとする力)を「陰圧」で引っ張ることにより保っていたのに、その陰圧がかからなくなると・・・もうお分かりですね。肺は、縮んでしまいます。
人工呼吸器使用中の気胸
気胸になる原因はいくつかありますが、ここでは人工呼吸器使用中の気胸について説明していきます。
人工呼吸器使用中におこる気胸は、「緊張性気胸」と呼ばれるものがほとんどです。
空気の流入(吸気)が排気(呼気)よりも早い場合などに、肺を覆っている臓側胸膜に穴が開いてしまいます。そこから空気が漏れだして、胸腔内は空気でぱんぱんになります。すると陰圧が保てなくなり、肺が縮んでしまうのです。
緊張性気胸の症状
緊張性気胸の場合、以下のような症状が現れます。(スマートフォンの方は画面を横にしてご覧ください)
<意識清明の患者>
ほぼ全例に出現 | 胸痛、呼吸困難 |
---|---|
50-70%に出現 | 頻脈、患側呼吸音の減弱 |
10-25%に出現 | SpO2の低下、気管偏位、血圧低下 |
まれ(10%未満) | チアノーゼ、打診上鼓音、意識低下、患側胸郭膨隆、患側胸郭運動低下 |
<気管挿管し陽圧換気状態の患者>
ほぼ全例に出現 | 急速に発症 増大する皮下気腫 SpO2や血圧の急激な低下 |
---|---|
約33%に出現 | 換気圧の上昇 患側胸郭膨隆 運動低下 患側呼吸音の低下 |
まれ(25%未満) | 巨大な皮下気腫 頸動脈の怒張 |
引用:林 寛之「たかが気胸、されど気胸 Part1 レジデントノート Vol.10 No6 2008 959-967」
緊張性気胸になると、肺がしぼんでしまい、その一方で漏れ出した空気で胸腔内はぱんぱんに膨らみます。その膨らみが、心臓や上・下大静脈を圧迫して静脈還流障害を引き起こすともう大変です。ショック状態に陥り、短時間で心停止を起こしてしまう危険性もあるのです。
緊張性気胸への対処法
緊張性気胸は、肺を覆っている膜が破れたためにそこから空気が漏れ出し、陰圧がかからなくなって肺がしぼんでしまった状態のことでしたね。
この状態は、時に一刻を争います。そこで、何を行うか。
まず、胸腔内に溜まった空気を抜いてあげます。
14〜16Gの針を第二肋間の鎖骨中線上にむかって穿刺することで、胸腔内の空気を抜いて、肺が膨らむようにします。
その後、胸腔ドレーンによるドレナージを行っていきます。
DOPEの「P」 Pneumothorax 関連ページ
- 人工呼吸器って難しいの?
- 人工呼吸器の仕組み
- 基本設定@空気をどのくらいの「時間」で送るか
- 基本設定A空気をどのくらいの「量」送るか 〜VC〜
- 基本設定B空気をどのくらいの「圧」で送るか 〜PC〜
- 基本設定C空気をどのくらいの「速度」で送るか
- 基本設定Dどのくらいの「濃度」の空気を送るか
- 基本設定E患者さんの肺を守る工夫〜PEEP〜
- 人工呼吸器3つの「モード」CMV、SIMV、CSV
- CMV 〜A/C アシストコントロール〜
- CSV 〜PSV〜
- CSV 〜CPAP〜
- SIMV
- 吸気を成りたたせるもの@トリガー
- 吸気を成りたたせるものAリミット
- 吸気を成り立たせるものBサイクル
- 最高気道内圧について
- 人工呼吸管理の適応基準
- 人工呼吸器の「加温・加湿」について
- ウィーニングについて
- なぜ人工呼吸器使用中に鎮痛・鎮静が必要か
- 鎮痛・鎮静中の原則
- 代表的な鎮静薬
- 代表的な鎮痛薬
- 鎮静薬、鎮痛薬の使用法まとめ
- 非侵襲的陽圧換気(NPPV)とは
- NPPVの適応
- NPPVのメリット、デメリット
- NPPVを行うにあたって 患者さんへの説明
- NPPV2つのモードと呼吸器の設定
- NPPV使用中の患者さんへの看護
- 人工呼吸器使用中の患者さんの急変!まずは落ち着こう
- DOPEの「D」 Displacement
- DOPEの「O」 Obstructive
- DOPEの「E」 Equipment failure
- 人工呼吸器のアラームについて
- 無呼吸アラーム
- 気道内圧低下アラーム
- 気道内圧上昇アラーム
- 換気量上限アラーム
- 換気量低下アラーム
- 換気回数増加(呼吸数増加)アラーム
- ガス供給アラーム
- 電源異常アラーム
- その他のアラーム
- ファイティングとバッキング
- 自己抜管・事故抜管
- 用語集