人工呼吸器の「加温・加湿」について
私たちが普段何気なく行っている呼吸。実は、呼吸するたびに加温と加湿も行われていたって知っていましたか?
私たちが息を吸うとき、吸い込んだ空気は咽頭、喉頭、気管、気管支を通って肺に到達します。肺に到達するまでの間に、吸い込んだ空気は血管や粘膜によって温められ、水分が与えられ、加温・加湿されているのです。そして肺に到達したときには、温度37℃、相対湿度※100%となります。これは、気管や気管支が働く上で最適な状態です。
人工呼吸器を使っている患者さんは、鼻腔や口腔内などを通らずに気管に空気が送り込まれます。つまり、私たちが自然に行っている加温・加湿が行われないため、そのままでは乾いた空気が肺に到達してしまうのです。
そのため、人工呼吸器を使用している患者さんに対しては、しっかり加温・加湿を行う必要があるのです。
※ 相対湿度とは:温度が上昇すると低下する湿度のこと。一般的に使われる湿度と同じ意味。ちなみに「絶対温度」とは、温度が変化しても変わらない湿度のこと。
なぜ加温・加湿しなくてはいけないのか
それでは、加温・加湿が行われないとどのようなことが起こるのか考えていきましょう。
イメージしてみてください。わたしたちがかっぴかぴに乾いた空気を吸い込んだらどうなるか・・・。
空気が乾燥していると、朝起きたときにのどが痛くてそのまま風邪をひいてしまった、なんてことありませんでしか?加湿が適切に行われないと、感染症を引き起こす原因にもなってしまいます。
さらに、痰も固くなってしまいます。痰が固くなると、粘稠度があがって吸引しにくくなります。最悪の場合、気管チューブの閉塞を引き起こしてしまうこともあります。
また、空気が冷たいまま肺まで到達してしまうと、体温が低下してしまうことがあります。
これらの理由から、人工呼吸器を使用している患者さんに対してはしっかり加温・加湿を行う必要があるのです。
加温加湿器と人工鼻
人工呼吸器を使用している患者さんに対する加温・加湿の重要性はわかりましたね。
実際の臨床では、患者さんに加温・加湿された空気を送るために「加温加湿器」と「人工鼻」のいずれかが用いられます。
「加温加湿器」と「人工鼻」
それぞれメリット・デメリットがあり、適用となる患者さんも異なるため、一概には「どちらのほうが優れている!」とは言い切れません。
加温加湿器は、人工鼻よりも加湿機能が優れています(温度を十分高く設定した場合)。しかし、加温加湿器には結露の問題が付いて回るため、結露の排水や感染のリスクなどが増えます。
人工鼻は、結露の問題がありませんが、人工鼻の内容量がそのまま死腔となるため一回換気量(VT)の小さい患者さんは注意が必要です。
詳細は、以下の表のとおりです。(スマートフォンの方は画面を横にしてご覧ください)
加温加湿器 | 人工鼻 | |
---|---|---|
加温加湿の性能 |
・高い |
・一般的には問題ない |
結露 |
・呼気側と吸気側の両方に溜まる |
・ほとんど溜まらない |
メンテナンス |
・精製水または蒸留水の補充が必要 |
・フィルター部に分泌物が付着した場合、速やかに交換が必要(気道抵抗が上がる) |
最適の患者群 |
・喀痰が粘ちょうで多い患者 |
・在宅、患者搬送時、短期の人工呼吸 |
禁忌 | ・特になし | ・低体温症、高い分時換気量、死腔が無視できない、大量の痰や血痰など |
起こりうる |
・空焚きによる高温ガス吸入での気道熱傷 | ・フィルター部に分泌物が多量に付着して閉塞することによる換気不良や窒息 |
考慮すべき問題点 |
・結露の貯留によるトリガー不良など人工呼吸器と患者の同調性低下が起こる |
・48時間以上の使用では気道抵抗が増して呼吸仕事量が増える危険がある |
交換の必要性 | ・人工呼吸器回路と一緒に交換 | ・メーカー推奨は24〜48時間 |
コスト | ・人工呼吸器回路の交換頻度が低いほど低コストになる。定期交換をしない施設もある(汚染された場合のみ交換するので、1か月以上使うこともある) | ・人工鼻の交換頻度が低いほど低コストだが、48時間以上の使用には患者の呼吸メカニクスを常時監視できるマンパワーが必要 |
引用:羊土社 「人工呼吸管理に強くなる」 編集 讃井將満、大庭祐二
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