看護師のキャリアアップについて考える

 

看護師は、「国家試験に合格したら終わり」という資格ではありません。むしろ、「国家試験に合格してからが本当の学びの始まり」といえる資格です。

 

世の中には、「師業」と呼ばれる専門職種がたくさんあります。

 

例えば、医師(臨床医)は診療のスペシャリストです。病気や治療についての深い知識と経験を持ち、患者さんに対して適切な診療を行います。病気の治癒だけでなく、病気との共存方法といった広い視野を持ちながら患者さんの生活の質を第一に考え、治療していく役割があります。

 

また、薬剤師は薬のスペシャリストです。臨床で働く薬剤師は、世の中に数え切れないほど存在する薬に対する専門的な知識を持っています。薬に使われるのでなく、薬をどのように使っていくべきかを医師や患者さんに対して指導します。

 

このように「医師」や「薬剤師」などの師業がどのような役割を担っているかについては、イメージしやすいと思います。しかし、「看護師」がどのような役割を担っているか、すぐに思い浮かべるのは難しいのではないでしょうか。

 

その理由は、看護師の役割には、曖昧な部分が多いからです。保健師助産師看護師法(保助看法)と呼ばれる看護師の法律に明記されている看護師の役割は「医師の診療補助」「患者さんの療養における世話」です。しかし、これらの定義はいかようにも拡大解釈できるものです。そのため、看護師の業務はとても幅広いです。

 

看護師の資格というのは、その「曖昧さ」こそが強みでもあります。つまり、「看護師」という職業は応用の幅が広く、さまざまな役割を担うことができるのです。

 

事例から学ぶ看護師のキャリアアップ

 

一般的に「看護師」と聞いて真っ先に想像されるのは病棟看護師だと思います。管理人は小児病棟で働いていたので、小児病棟看護師を例に出してみていきます。

 

小児科病棟看護師は、患者さんを数名受け持ち、「バイタルサインの測定」「内服の介助」「検査の補助」「静脈注射の投与」「抗がん剤の管理」「日常生活の支援」などを行います。これだけ見るとシンプルな業務のように思えますが、実際はそれぞれに専門性が求められます。

 

例えば、「内服の介助」という業務があります。大人に対しては薬を手渡すだけで飲んでもらえますが、子ども相手ではそうはいきません。子どもは薬の必要性がわからないため、嫌がって吐き出すことが多いからです。

 

そんな時に小児科看護師は、無理やり飲ませるのでなく「子ども自身の力を伸ばして自ら飲ませるにはどうするか」を考えます。そのため、たとえ小さな子どもでも「紙芝居」「絵本」「シール」などを使いながら月齢にあった説明を行います。内服に時間がかかる子どもに対しては、好きなキャラクターを使っておままごとを行い、遊びの中で楽しみながら内服ができるよう援助します。

 

このように、常に子どもの目線に立ちながら「子ども自身が持っている力」を伸ばすスペシャリストが「小児専門看護師」です(小児専門看護師の役割はほかにもたくさんあり、これは一例です)。小児専門看護師は、小児看護をする人が目指すキャリアアップの一つです。

 

また、小児病棟看護師の役割には「家族間の調整」もあります。小児がんなどで長期の治療が必要な場合、1人の患者さんにおける入院から退院までをサポートする担当看護師が決まります。これを「プライマリー看護師」といいます。

 

プライマリー看護師は、家族構成員それぞれの背景を聞きながら、家族が団結して子どもの治療に向かっていけるよう、身体面だけでなく「社会面」「心理面」からもさまざまなアプローチを行います。

 

患者本人だけでなく、その家族に対しても広い意味での看護を行うプライマリー看護師の働きは非常に重要です。プライマリー看護師は新人でもなることができますが、複雑なケースでは経験のある看護師しかなることができません。

 

多職種と連携しながら、担当の患者・家族が悔いのない選択をしていけるよう援助していくことはキャリアを積んだ看護師にしかできないことですし、これは臨床看護のスペシャリストであるといえます。

 

このように、一口に「キャリアアップ」といっても、資格を取得するものから、臨床実践のスペシャリストとなるものまで、いろいろな方法があります。

 

キャリアは、英語で「career」と書きます。「career」は、「運ぶ」という意味の英語である「carry」がもととなって生まれた単語です。

 

看護師という資格を取得したみなさんは、何らかの形で看護師という資格を「career」(背負って)いただけたらと思います。そのうえで、ただ仕事に役立てるというだけでなく、自分がやりがいをもって生きていけるように、自らの人生を豊かにするために看護師の資格を役立てていっていってほしいと思います。

 



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